【タロットと象徴Vol.6】タロットにひそむ『蛇』の象徴とは?【2】死神・悪魔・塔が語る変容と解放のチャンス

この「蛇」が示すのは、恐れではなく「変容と解放」のチャンス

こんにちは、タロッティストの小鳥遊です。

タロットカードには、私たちが目に見えるものだけでなく、目に見えないものにも耳を傾けるべきだと語りかけてくる象徴が数多く隠れています。

前回の記事では、明示的に蛇が描かれているカード──『恋人』『運命の輪』『隠者』『魔術師』──に焦点を当て、蛇がもたらす知恵、変容、循環の象徴についてご紹介しました。

今回はその続編として、一見すると蛇が描かれていない──けれどもその本質に、蛇の象徴が深く関わっている──3枚の大アルカナカードに注目してみたいと思います。

それは、『死神』『悪魔』『塔』。
一般的には”3大凶カード”として怖がられることも多いこれらのカードですが、私はむしろ、ここにこそ「隠された蛇の力」が宿っていると考えています。

“壊すこと”があるからこそ、“創ること”ができる。
“死”があるからこそ、“再生”がある。

蛇は静かに、しかし確実に、私たちの人生の「節目」に現れます。
その力を正しく知ることで、これらのカードがもたらすメッセージは、恐れではなく「変容と解放」のチャンスとして受け取ることができるのです。

それでは順に、この3枚に宿る「隠された蛇の力」を紐解いていきましょう。

隠された蛇の力を持つカードたち

『死神』──「終焉は再生への門である」

それは終わりではなく、変容の儀式

死神のカードに蛇は描かれていません。
しかし、その構図や象徴に込められた意味を丁寧に読み解いていくと、そこには確かに「脱皮の象徴としての蛇」が息づいています。

ウェイト版では、死神は白馬にまたがり、甲冑をまとった骸骨の姿で登場します。
その手には黒地に白い五弁花(神秘のバラ)が描かれた旗を掲げ、地に倒れる人々──王、聖職者、少女、子供──の魂を刈り取っています。

この情景は一見、破壊と絶望のように見えるかもしれません。
けれども、遠景に描かれた「二本の門柱」と「昇る太陽」は、まさに“死を超えてなお輝く再生”を暗示しています。

蛇は、脱皮によって古い皮を捨てることで、成長と再生を繰り返す生き物です。
このカードに直接姿は描かれないものの、「骸骨=本質の象徴」「旗のバラ=未完成ゆえの可能性」「門柱の向こうの太陽=再生の光」といった要素を通して、蛇の象徴はまさに“隠された主役”としてそこにいるのです。

ある鑑定でこのカードが出たのは、長年同じ職場で悩みながらも辞める決断ができなかった女性に対してでした。
「もう潮時かもしれない」そう思っていた彼女にとって、『死神』の出現は、まるで背中を押すような力となりました。
数ヶ月後、彼女は新しい環境へと転職し、「まさかここまで生き生きと働ける日が来るとは」と語ってくれたのです。

『死神』が伝えるのは、“終わり”の恐怖ではなく、“終わらせることで得られる再生の力”。
そしてそれはまさに、蛇が教えてくれる変容の叡智なのです。

悪魔(XV)──「囚われと依存、欲望の炎としての蛇」

欲望を超えて自由へ向かう力

『死神』が「終わりと再生」の扉を開いた後に現れるのが『悪魔』のカードです。
ここで描かれるのは、一見して蛇の姿はありません。
しかしこのカードは、まさに蛇の象徴──誘惑・欲望・依存・毒・快楽・執着──を見事に体現しているといえるでしょう。

ウェイト・スミス版の『悪魔』は、ヤギの角とこうもりの翼をもった異形の存在として、男女の上に君臨しています。
彼らの首には緩やかな鎖がかけられており、自由を奪われているようでいて、実は自らその場にとどまることを選んでいるかのような表情を浮かべています。
ここに、蛇の「魅惑し、からみつき、絞めつける」という象徴性が暗に表現されているのです。

注目すべきは、女性の尻尾が「葡萄」であり、男性の尻尾が「燃え盛る炎」である点。
葡萄はディオニュソス(バッカス)の神酒として「快楽・酩酊・豊穣」の象徴であり、炎は「激しい欲望・本能・支配衝動」を表すもの。
これらはまさに、蛇が象徴する“人間の内なる毒”の形をとって現れた姿に他なりません。

このカードの中に描かれる“逆五芒星”もまた、堕落や堕天、堕ちた知性──つまり「堕ちた蛇の知恵」の象徴と読み解くことができます。
ある相談者が、「今の仕事をやめたいけれど、安定収入を手放すのが怖い」と話してくれました。そのときに出たのがこの『悪魔』のカードでした。表向きは理性的な選択のように見えるけれど、実は「恐れ」と「打算」──つまり執着と依存に絡み取られている状態。その執着が、まるで締めつける蛇のように、彼の変化への意思を阻んでいたのです。

このことを伝えると、彼はしばらく黙ってから、「たしかに、やりたくない仕事にしがみついて、動けないままでいた」と。
『悪魔』のカードは、「誘惑」や「堕落」だけを象徴するわけではありません。
それは自らの内なる蛇──本能や欲望とどう付き合っていくかを問う試練のカードでもあります。

蛇のように、私たちはしばしば「脱皮」のタイミングに立たされます。
しかしそのとき、過去の皮にしがみつこうとする自分が、もっとも大きな敵となるのです。
『悪魔』のカードは、まさにその心の闇に光を当て、鎖を断つことができるかどうかを私たちに問いかけているのですね。

塔(XVI)──「殻を壊し、再構築へ向かう雷の蛇」

崩壊と啓示、そして「蛇」の記憶

闇の中、稲妻に貫かれる灰色の塔。それは、私たちが積み上げてきた「信念」や「常識」――もしくは、それらに見せかけた虚構が音を立てて崩れ去る瞬間です。

『死神』の静かな終焉が、「再生」の土壌を耕し、『悪魔』の甘美な執着が、「欲望」の鎖を浮かび上がらせたのなら、この『塔』は、それらを外側から強制的に破壊する雷撃です。

ウェイト版タロットの中で、背景が完全な黒で塗りつぶされたのは『悪魔』と『塔』だけ。
ともに「闇」を象徴するこの2枚は、対になるカードとして描かれています。
しかし、その闇は決して悲劇や凶兆だけを意味するものではありません。

『塔』は、バベルの塔の伝説に通じる「人間の傲慢さ」への警鐘であると同時に、神の意思――天啓としての雷が、古びた塔(≒固定観念、特権、虚栄)を打ち砕くことで、再構築の道を示すという「救済の衝撃」でもあるのです。

塔の上部には王冠(ケテル=王権・支配の象徴)が浮かび上がり、それが雷によってはじき飛ばされる光景は、まさに人間の知性や理性に仮託された「高慢の崩壊」を物語ります。

破壊されるのは、
―人間のプライドで築いた塔
―積み上げてきた富や名誉
―こだわりや惰性、あるいは「自分は正しい」という幻想

しかし、それを打ち砕くものは「罰」ではありません。
ウェイトは、この雷を黄色=太陽の恩寵の色で描きました。
それは痛みを伴う祝福。

稲妻が象徴するのは「神の声」であり、「魂の目覚め」。
堕落した知性を焼き尽くし、心の装甲を破壊することでしか届かない“光”がある。
そう、塔は神聖な浄化のエネルギーに他ならないのです。

そしてもう一つ、見落としてはならないのが、塔の「構造そのもの」に組み込まれた《蛇》の象徴性です。

塔の形は垂直にそびえる角柱、男性性、精神性の構築、支配の意志。
これが崩されるとき、まるで脱皮する蛇のごとく、古い皮が破れ、真の自己が現れるのです。

しかも、塔の破壊によって投げ出されるふたりの人間。
彼らは『恋人たち』『悪魔』に登場する男女の“その後”とも言われます。
愛が試練を経て“依存”へと堕ち、やがて塔によって“破局”する、この一連の過程にも、蛇が脱皮を繰り返しながら進化する姿が重なります。

火のエレメントに属する『塔』は、焼き尽くすことで清め、すべてをゼロから再生させるための「破壊の祝福」。

“壊れた”のではない――“壊すべきだった”のです。
なぜなら、あなたの内なる蛇は知っている。
「このままでは、真実の光に辿りつけない」と。

死・堕落・崩壊――それでも、光は「そこ」にある

『死神』『悪魔』『塔』――この三枚のカードは、表層の印象として「恐ろしい」「不吉」「避けたい」と感じる方が多いかもしれません。

しかし、それらはどれも「人生の深層」において欠かすことのできないカードです。

死神が教えるのは、「終わりこそが始まり」であるという再生の摂理。

悪魔が暴くのは、「私たちの中の欲望と執着」という隠された力。

塔が壊すのは、「虚構に満ちた世界」であり、それが壊れることでしか生まれない“真実”があるのです。

この三枚のカードには、共通して一つの象徴が潜んでいます。
それが「蛇」。

『死神』のバナーに描かれた五弁花(=未完成の五芒星)は、再生を待つ魂を象徴し、その姿はまるで脱皮前の蛇のよう。

『悪魔』の尾に絡みつく炎や葡萄の房は、原初的な本能や快楽に耽溺する、蛇的な欲望のしるし。

そして『塔』の崩壊が告げるのは、皮を脱ぎ捨て、古い自分を砕いた先にしか本当の目覚めはないという啓示。

蛇とは、死と再生、誘惑と知恵、破壊と変容。
この三枚のカードは、どれも明示こそされていないものの、蛇という元型(アーキタイプ)が根底に流れているカードたちなのですね。

《明示されていない蛇》を探す旅へ再び

次も、これまで「象徴として描かれてはいない」――けれど、その構造やテーマの中に蛇的な性質が潜んでいるカードたちを追っていきます。

  • 知恵の象徴としての蛇が微かに香る『女教皇』
  • 心の奥底の深淵にひそむ『月』
  • そして、再生を支える『力』や『節制』における「蛇の知恵」への回帰

目に見えないだけで、蛇はいつも、あなたの傍らにいるのです。

記事)小鳥遊

参考文献
『世界シンボル辞典』ハンス・ビーダーマン著
『タロット象徴辞典』井上教子著

『タロットの歴史』井上教子著
『シークレット・オブ・ザ・タロット』マーカス・カッツ/タリ・グッドウィン著 他    

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