【タロットと象徴|Vol.7】タロットにひそむ『蛇』の象徴とは?【3】女教皇・月・節制の秘められた象徴

女教皇・月・節制・力・世界の中にひそむ霊的変容
こんにちは、タロッティストの小鳥遊です。
タロットにおける「蛇」は、知恵、再生、誘惑、超越、神秘といった象徴を担いながら、多くのカードに暗示的にその姿を潜ませています。
本記事【第3部】では、第2部で扱った隠された蛇(「死神」「悪魔」「塔」)に引き続き、図像には描かれていないが“蛇的な象徴”が濃厚に潜むカードたちに焦点を当てます。
特に取り上げるのは、「女教皇」「月」「節制」の三枚――霊性の深淵に踏み込む存在たちです。そして補足的に、「力」と「世界」における“蛇的統合”にも触れていきます。
隠された蛇の力を持つカードたち
女教皇(Ⅱ) ― 叡智と秘儀の守護者

変容、再生、そして神聖な秘密の番人
ウェイト版タロットの大アルカナ第2番「女教皇」は、一見すると「蛇」とは無縁に見えるかもしれません。しかし、象徴の層を丁寧にめくっていくと、このカードの中にも、古代から続く蛇のモチーフが静かに、しかし確かに息づいていることがわかります。
女教皇は、BとJの2本の柱に囲まれた玉座に腰掛けています。この柱は「ボアズ(峻厳)」と「ヤキン(慈愛)」を象徴しており、その背後には青いヴェールが垂れています。このヴェールにはザクロが描かれ、生命力と豊穣の象徴であり、また古代オリエントの女神崇拝にも通じる神秘的な図像です。
このザクロのヴェールは、蛇の皮膚のように幾重にも重なった叡智の層を象徴していると読むことができます。ヴェールの奥に秘められたものは、直接的に描かれることはありませんが、それはまさに「隠された知識」であり、蛇が伝統的に担ってきた象徴そのもの――変容、再生、そして神聖な秘密の番人なのです。
また、女教皇の足元にうっすらと見える「三日月」も、蛇との象徴的な関係を持ちます。三日月は周期を繰り返す月の象徴であり、古代においては蛇とともに「死と再生」「女性性」「直感」を象徴する一対として扱われてきました。蛇が脱皮することで新しい生命を得るように、月もまた新月から満月へ、そして再び闇に戻る――そのサイクルの象徴です。
そして、彼女の手に持つトーラー(律法)は、言語や法、言葉の背後にある叡智の象徴です。トーラーに覆いがかけられていることも重要なポイントで、これは「開示されるべき時が来るまでの秘儀」を表しています。この「隠されたものを守る者」「門の前に立つ存在」という役割は、古代神殿の蛇神たち、たとえばウダジャトの目や、クンダリーニとして描かれる蛇の霊力とも共鳴しています。
つまり、女教皇のカードには明示されていないものの、蛇の象徴は複層的に潜在しているのです。それは単なる本能や危険ではなく、「秘められた叡智」「周期的な再生」「直感的洞察」「神殿の門番」といった高次の象徴として。
女教皇に見る蛇とは、「沈黙のなかで語るもの」「語らぬことによって伝えるもの」の象徴。目に見える図像の奥に秘められたこの神秘的存在は、タロット全体の中でも、もっとも深く霊的な洞察へと私たちを導いてくれる鍵となる存在なのです。
月(XⅧ)──「幻惑の光と蛇の影」

まだ見ぬ叡智を宿す無意識の深淵
『月』のカードは、タロットの大アルカナの中でもとりわけ幻想と混迷の象徴として知られています。 しかし、このカードの核心に潜むのは「真実を覆い隠す闇」ではなく、「まだ見ぬ叡智を宿す無意識の深淵」であり、そこに蛇の象徴がひそやかに息づいています。
ウェイト版『月』には、明示された蛇の姿こそ描かれていませんが、画面下部に描かれた小道、犬と狼が遠吠えする構図、そして水から這い上がろうとするザリガニの姿などが、多層的な象徴として“蛇的なるもの”を暗示しています。
井上教子氏はこのカードについて、以下のように説いています。
月の光は、照らし出すようでいて物の形を歪ませ、見る者に錯覚と幻想をもたらす。 しかし同時に、見えないものを映し出す鏡としての力を持つ。 『月』とは、人間の心の奥底にひそむ潜在意識の領域であり、そこには太古の記憶や霊的感受性が眠っている。
まさにこの“潜在意識”の深部と、蛇の象徴が結びつきます。蛇とは、地下を這い、変容と再生を繰り返しながら生きる生物。その姿は、生命の循環と精神的進化のメタファーでもあるのです。
カード下部に描かれたザリガニは、表層意識の水面下に眠る“原初の生命”の象徴であり、また井上氏によれば「死と再生の神秘的サイクル」を象徴する存在です。ここに蛇の変容のテーマが重なります。
また、『月』のカードに描かれた左右の塔は、タロットにおける門(イニシエーション)を意味する構図であり、門をくぐる者は幻想の迷宮を抜け、霊的な気づきへと至る試練の旅路を歩みます。
この門の先に待ち受けるものは、真実という名の光。しかしそれは、『太陽』のように明るく暖かい光ではなく、魂を揺さぶるような“月の啓示”なのです。そこへ至るには、混乱と疑念、内なる恐れと向き合う勇気が必要です。
つまりこのカードは、蛇が脱皮を繰り返すように、内面の影と対峙し、ひと皮むけた自分へと生まれ変わる準備を促しているのです。
さらに補足として、『月』のカードには蛇に関連する以下のような象徴が読み取れます:
- 夜の支配者である月=太陽と対を成す二元性(昼と夜、生と死、意識と無意識)
- 狼と犬=野性と理性の間で揺れ動く人間の本能(蛇の二面性)
- 小道=蛇のようにくねる魂の旅路(カバラ的な小径の象徴)
- 水から這い上がる存在=潜在意識から浮上する変容への兆し
これらの象徴がすべて、蛇の神秘性と呼応しているのです。
『月』は、内面の奥底にある恐れや迷いと正面から向き合うよう迫るカードでありながら、そこに宿る直感と霊性を通じて、まったく新しい世界を照らし出す啓示の象徴でもあります。
そして、私たちが蛇という古代的なイメージを通してこのカードと向き合うとき、月光の下にある幻の風景が、次第にその真の姿をあらわにしてくるのです。
節制(XⅣ) ― 流動と調和のなかに潜む蛇の叡智

境界を越える者の象徴
ウェイト版「節制」のカードには、はっきりとした蛇の姿は描かれていません。しかし、水面から水面へと注ぎ込まれる水の流れ、その静かでありながら循環するエネルギーに、蛇が象徴する「変容」や「境界を超える知恵」が確かに息づいています。
一見穏やかなこのカードにおいて、蛇は姿を変えて、水の流れそのものとなり、天使の動作と一体化しています。
天使は片足を水に、片足を地に置いています。この姿勢は、「地と水」「意識と無意識」「肉体と霊性」の境界を行き来する存在であることを示しています。
まさに蛇が古代より象徴してきた「二元性を統合する存在」との共鳴が見られます。天使が持つふたつのカップをつなぐ水のアーチは、蛇のくねる動きと同様、螺旋的で、有機的。ここに見えざる蛇の霊的意図が垣間見えるのです。
蛇がしばしば毒と薬、死と再生を象徴するように、「節制」は調和という静的な状態ではなく、対極を循環させる動的な知恵を示します。
天使の背後にある道、そして昇る太陽もまた、変容のプロセスを暗示しており、節制の天使は蛇的な叡智をまといながら、私たちをより高次の理解へと導こうとしています。
私たちが「蛇」という象徴を深く見つめるとき、そこには本能と理性、毒と薬、生と死という相反する力が織り成す二元の統合が常に現れます。
まさにそのテーマを体現するのが、大アルカナ『力』と『世界』です。
力(Ⅷ) ― 意志のしなやかさ、精神の昇華としての蛇

内なる獣性を“感情”ではなく“霊性”で昇華する
カードに描かれる女性は、猛り狂う獅子を力でねじ伏せているわけではありません。優雅に、しかし確かな意志でその口を押さえ、内なる獣性を“感情”ではなく“霊性”で昇華する姿がそこにあります。
この女性の額に描かれた無限(レムニスケート)もまた、蛇を象徴する図像のひとつ。「永遠なる力」は、支配や抑圧によって得られるものではなく、自己との調和と受容によって立ち上がるものなのだというメッセージが伝わってきます。
蛇が本能的な生命力や性的エネルギーを象徴するのであれば、それを恐れることなく受け入れ、方向づける術を教えてくれるのがこの『力』のカードです。
世界(Ⅷ) ― 統合の完成、蛇と宇宙の円環

霊的完成の象徴
そして最後に、宇宙的統合の完成を告げる『世界』のカード。ここに描かれるリース(宇宙卵)は、まさにウロボロスの蛇と照応する楕円の構造であり、「始まりであり終わり」「内包と超越」という霊的完成の象徴です。
四聖獣に囲まれたこの女性は、単に目標を達成した「結果」の象徴ではありません。陰と陽のバランス、個と全体、精神と物質、あらゆる二項の統合を達成した“自己超越の姿”なのです。
蛇が脱皮によって成長と再生を繰り返すように、『世界』の女性は新たな宇宙の門をくぐろうとしています。このカードが示すのは「終わり」ではなく、「霊的再誕」のときなのです。
変容の案内人であり、霊性の根源的なエネルギー
『女教皇』『月』『節制』に共通するのは、すべてが“見えざる世界”との橋渡し役であること。
そして『力』がそれを本能という内的世界との統合へと導き、『世界』がそれらすべてを宇宙的完成の円環へと昇華させてゆく――。
蛇とは、単なる“怪しいもの”でも“怖いもの”でもなく、
変容の案内人であり、霊性の根源的なエネルギーです。
見えざる蛇は、あなたの内側ですでに脱皮を始めているのかもしれません。
記事)小鳥遊
参考文献
『世界シンボル辞典』ハンス・ビーダーマン著
『タロット象徴辞典』井上教子著
『タロットの歴史』井上教子著
『シークレット・オブ・ザ・タロット』マーカス・カッツ/タリ・グッドウィン著 他
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