【タロットと象徴|Vol.9】犬のタロット象徴 ― 忠誠と魂の旅路に寄り添う存在

愚者、月、ペンタクルの10に描かれる最古の友の姿とは

「犬は人類の最古の友」──この言葉が象徴として最もよく当てはまるのが、タロットにおける犬の描写です。ウェイト版タロットでは、愚者・月・ペンタクルの10といったカードに犬が登場し、それぞれの文脈で異なる役割を担っていますが、いずれも人間の魂の旅路に寄り添う存在として、深い意味を湛えています。

本記事では、犬が象徴するもの、各カードに描かれた犬の意味、そしてその背後にある神話や文化的背景に触れながら、『犬』というシンボルの奥行きを掘り下げてみましょう。

犬が象徴するもの─忠誠、導き、そして霊的感応力

世界の神話や文化の中で、犬は単なる「ペット」ではなく、魂の案内役として深い敬意を払われてきました。

  • 古代エジプトでは、ジャッカルの姿をした冥界神アヌビスが、死者を来世へ導く存在として崇められました。
  • ギリシャ神話の冥界には三つの頭を持つ番犬ケルベロスが門番として立ちはだかります。
  • 中南米のアステカやマヤの神話では、犬は冥界への橋渡し役であり、死者の霊を「九重の川」の向こう岸へと導く存在でした。
  • 中世ヨーロッパの墓碑彫刻に見られる犬は、忠誠と貞節の象徴として、死者の傍らに刻まれています。

こうした伝承からもうかがえるように、犬は「見えない世界に敏感な存在」「境界を越える案内人」「無償の忠誠」を象徴する動物として、深く人類の精神世界に根を下ろしているのです。

犬モチーフのカードたち

愚者(0)

『愚者』の白い犬─魂の旅に寄り添う無垢なる伴侶

ウェイト版『愚者』に描かれているのは、白い太陽の下、崖の淵を自由に旅する若者と、その足元で共に跳ねる白い犬の姿です。

この犬は、愚者の無垢な魂に寄り添う忠実な伴侶として登場しています。

  • 白は「無垢」「純真」「悪意のなさ」を象徴する色。
  • 犬は理性ではなく本能に従って動き、人間のような損得勘定抜きで付き従います。
  • 若者が冒険を始めようとするその足元で、犬は警告を発しているようでもあり、共に喜んでいるようでもあります。

「愚者」と「犬」は、魂とその影、あるいは自己の外的象徴と内なる直感との関係としても読むことができます。ときに無謀な一歩を踏み出そうとする若者に、犬は「信仰」としての支えであり、また「無意識からの警告」であるのです。

信仰とは、目に見えないものを信じる力。
愚者の旅が希望と危うさを伴うように、犬もまた、光と闇の両側面を担う存在です。

実占では

この犬は「無条件のサポート」を象徴する存在です。
質問者がまっすぐに進もうとしているとき、それを助けてくれる人が近くにいる――それが人であれ、出来事であれ、現象として現れることを示します。
また、危うい選択であっても、それを肯定的に支えてくれる力が存在していることを読み解くこともできます。

ただし、この犬が「吠えて警告している存在」と見えるときには要注意。
「今、足元を見なさい」「無謀な一歩かもしれない」という、内なる直感の声として現れている場合もあるのです。

ソード(2)

『月』に現れる2匹の犬─本能と理性の揺らぎ

『月』のカードには、狼のような犬と、やや従順そうな犬の2匹が描かれ、満月に向かって遠吠えを上げています。月は本来、無意識・直感・幻想・変容といった象徴を持ち、そこに犬たちが登場することで、より深い霊的暗示が加わります。

  • 2匹の犬は理性と本能、あるいは昼と夜、光と影の象徴。
  • 古代の伝承では、犬は「霊を感じる力がある存在」とされ、死者の道案内でもありました。
  • 満月に吠える犬たちは、「人知を越えた呼びかけ」に反応しているとも読めます。

月の光が照らすあいまいな道。
そこを進むには、犬のように五感を研ぎ澄ませ、恐れずに前へ進む直感力が求められます。
『愚者』の犬が「出発の伴侶」だとすれば、『月』の犬は「迷いの中で感覚を取り戻させる存在」なのかもしれません。

実占では

犬は「理性としての自己」の象徴です。
特に、「わかっているのにできない」「理性と感情がバラバラに動いている」ような状態を指すことがあります。
犬と狼の間で揺れるとき、理性の声がどこまで本能に届くかが問われるでしょう。

また、《月》のカードが出たとき、犬は「不安の中で守ろうとするもの」「暗闇での警戒心」を意味することも。
この犬が吠えているのは、見えない危険への警告なのか、それとも過去のトラウマに反応しているだけなのか。
質問者の内側の揺れを見極める鍵として、犬の象徴に注目すると深い読みが可能になります。

ペンタクル(6)

『ペンタクルの10』の犬─家族と繁栄の象徴

『ペンタクルの10』には、門の下に三世代の家族が描かれ、その中に2匹の犬が穏やかに佇んでいます。老人のもとに寄り添う犬の姿は、家族の一員としての犬という現実的な象徴であると同時に、血のつながりと世代継承を見守る存在でもあります。

  • 犬はこのカードにおいて、「完成」「継承」「安定」の象徴です。
  • 犬が子供と関わる場面が描かれており、未来へと続く生命のバトンの存在感を強調します。
  • 『愚者』で見た「魂の旅の始まり」に対し、こちらは「到達点」「地上での確立された幸せ」としての犬の姿。

「愚者」の犬が霊性の旅の伴侶なら、「ペンタクルの10」の犬は、地上的な幸せをともに生きる家族の象徴。
タロットにおける犬の描写は、人の一生の物語を通じて、その側で常に変わらぬまなざしを向けている存在として現れているのです。

実占では

この犬たちは「日常の安心感」や「家庭・家族の支え」の象徴です。
物質的安定や家系の流れ、または大切な価値観を守る存在が身近にいることを示します。
質問者が築いてきた信頼関係や、家族・仲間との協力体制が基盤として機能している場合、このカードが現れます。

また、「ペットと家族の関係」「動物との絆」がテーマになることもあります。
質問内容によっては、文字通り「犬」がキーパーソンとなる場合もあるでしょう。

タロットの犬が語ること─あなたの側に、忠実な声なき声はいますか?

タロットに描かれる犬たちは、単なる脇役ではありません。
「自由への一歩」「霧の中での直感」「家族と過ごす幸福な時間」……それぞれの場面で、人の心の奥に寄り添い、時に導き、時に警告し、そっと見守る存在。

犬のシンボルは、占いにおいて「誰が味方か」「何が支えか」を読み解く手がかりともなります。
カードの犬がどこを見ているか、何に吠えているのか、どんな距離感で寄り添っているのか……
そこには、あなた自身が見落としている「無意識の導き」が表れているかもしれません。

記事)小鳥遊

参考文献
『世界シンボル辞典』ハンス・ビーダーマン著
『タロット象徴辞典』井上教子著

『タロットの歴史』井上教子著
『シークレット・オブ・ザ・タロット』マーカス・カッツ/タリ・グッドウィン著 他    

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