【象徴解釈Vol.4】ウサギの象徴 ― 生命と再生を跳ねるもの

ウサギという象徴 ― 生命力・純粋性・変容
ウサギはその柔らかな姿と跳ねる動きから、古代より生命の躍動・再生の象徴とされてきた。驚いたときの素早い反応や、静かな警戒心もまた、魂の敏感さと内的直観の象徴とされる。
一方で、その多産性や春との結びつきから、豊穣・性・繁栄といった象徴も併せ持つ。可愛らしさの背後には、非常に古層的な力が秘められている存在である。
日本文化・神話におけるウサギ
日本において「ウサギ」は、古代から特別な意味を持つ動物として親しまれてきた。その象徴性は単なる可愛らしさにとどまらず、神話、信仰、暦、自然観に深く結びついている。
もっとも有名な神話は『古事記』に登場する「因幡の白兎」である。ウサギは、神の使いとして登場し、海を渡るためにワニをだまして皮を剥がされ、苦しんでいたところを大国主命(おおくにぬしのみこと)に助けられる。この神話は「誠実さと癒し」「因果応報」「再生」の象徴として読み解かれており、ウサギは単なる弱い動物ではなく、霊的な試練を経て浄化と再生に至る存在と位置づけられている。
また、ウサギは「月」との関係が非常に深い。日本では月の模様を「ウサギが餅をついている姿」と見る伝統がある。これは中国から伝わった観月の思想と融合し、やがて十五夜の月見文化に定着した。『竹取物語』や『今昔物語集』では、ウサギが月で餅をついているという伝承が語られ、これは仏教由来の「捨身施行(しゃしんせこう)」の逸話が源流とされる。
猿、狐、兎の3匹が、山の中で力尽きて倒れているみすぼらしい老人に出逢った。3匹は老人を助けようと考えた。猿は木の実を集め、狐は川から魚を捕り、それぞれ老人に食料として与えた。しかし兎だけは、どんなに苦労しても何も採ってくることができなかった。自分の非力さを嘆いた兎は、何とか老人を助けたいと考えた挙句、猿と狐に頼んで火を焚いてもらい、自らの身を食料として捧げるべく、火の中へ飛び込んだ。その姿を見た老人は、帝釈天としての正体を現し、兎の捨て身の慈悲行を後世まで伝えるため、兎を月へと昇らせた。月に見える兎の姿の周囲に煙状の影が見えるのは、兎が自らの身を焼いた際の煙だという。
仏教説話
ウサギはその姿を通じて、「豊穣」「循環」「生命のリズム」を象徴する存在として、多くの詩歌や絵画、玩具に登場してきた。
さらに、ウサギは跳ねる様子から「飛躍」「成長」「縁起物」としても捉えられている。干支の「卯年」に生まれた者は温厚で人との調和を大切にするとされ、古くから社寺の縁起物としても人気が高い。特に京都・岡崎神社のように「ウサギを神の使いとする神社」も存在し、子授けや安産祈願の象徴として崇敬を集めている。
このように、日本におけるウサギの象徴は多層的であり、神話的救済、自然のリズム、家庭的幸福といった多様な意味を担う存在である。それゆえウサギは、「人の心に寄り添い、静かに福をもたらす存在」として古くから大切にされてきたのである。
世界の文化・神話におけるウサギ
● 中国
中国神話では「玉兎(ぎょくと)」が有名である。月に住む仙薬をつくる兎であり、不老長寿や不死の象徴とされる。これは西王母の伝承や、嫦娥(じょうが)が月に昇る神話とも結びつく。
ウサギはここで「月の仙獣」として、霊性・薬効・永遠の命といった象徴性を帯びる。
● ヨーロッパ・ケルト神話
ヨーロッパでは春の女神エオストレ(Eostre)に捧げられた動物がウサギである。これは後の「イースター・バニー」の原型であり、春分・新生・豊穣・性の力を象徴していた。

また、夜行性の性質と敏感な聴覚から、「精霊や霊界の動きを察知する存在」として、異界との接点に位置付けられることも多い。
● ネイティブアメリカン神話
ウサギは「トリックスター(いたずら者)」として登場し、予想外の展開をもたらす存在である。これは変化・創造性・機転といった象徴へと発展し、流動的な知恵の担い手とされた。
西洋思想・象徴学におけるウサギ
西洋におけるウサギの象徴は、純潔と官能の両極に分かれる。中世ヨーロッパではウサギは聖母マリアの純潔を象徴する動物とされ、宗教画にもその姿が描かれている。
一方で、その多産性から「性の象徴」「情熱の高まり」の比喩にも用いられ、心理学的には本能的欲求と無垢さの同居という深層イメージを担う存在となる。
ユングはウサギを「内なる子供」「守られるべきもの」「感受性の象徴」として扱った。
象徴からの読み解くウサギ スピリチュアル メッセージ
スピリチュアルの世界において、ウサギは「柔らかさと感受性」「受容性と創造性」「目に見えないものとの感応力」を象徴する存在である。表面的には無垢で可愛らしい印象を持つが、その裏には極めて高い直感力と霊的な感受性が宿っているとされる。
まず、ウサギは「変化の先導者」である。とくに環境の変化に敏感で、危険を察知する力に長けている。その性質はスピリチュアル的には、「波動の変化をいち早く察知し、自分を守る力」と解釈される。ウサギが夢や象徴として現れるとき、それは「いま、周囲の気配を感じ取れ」との宇宙的サインである場合が多い。
また、ウサギは「女性性」や「母性」の象徴としても知られている。西洋の月の女神アルテミス(またはディアナ)や東洋の月兎信仰と結びつくように、ウサギは「月」のエネルギーを体現する動物である。そこには「受け入れる力」「育む力」「潜在的なサイクルと同調する力」が含まれる。新たな命やアイデアを育てるプロセスにおいて、ウサギの象徴は非常に重要である。
さらに、ウサギは「幸運と繁栄」を招くシンボルでもある。多産であることから「豊穣」や「物質的成功」の前兆とされ、欧米では「ラビットフット(ウサギの足)」が幸運のお守りとして用いられる風習もある。スピリチュアル的には、ウサギの登場は「チャンスが目前にある」「飛躍の準備が整っている」ことを知らせる合図とされる。
そして、ウサギのもう一つの重要な側面は「恐れとの向き合い」である。非常に敏感で警戒心の強い動物であるがゆえに、ウサギは「自分の内側にある不安」や「未知への恐れ」を映し出す鏡となる。逃げるのではなく、恐れを見つめ、静かにその奥にある真実を感じ取る――その過程を導く存在としてウサギは現れる。
つまり、ウサギが持つスピリチュアルな意味は、「繊細な直感と内なる強さの両立」「静かな豊かさへの気づき」「魂のリズムとの共鳴」といった、静かでありながら力強いメッセージに満ちているのである。
占いにおけるウサギの使用例
タロットでの例
- 女教皇(The High Priestess):月と感受性の象徴=ウサギ的霊性
- 女帝(The Empress):豊穣・繁栄の象徴としての多産性・春との連携
- 月(The Moon):潜在意識・直観・幻想の中に棲むウサギのような存在



どの運気にかかわるか
- 恋愛運(新たな縁、純粋な感情)
- 生命力・健康運
- 直観・霊性に関わる運勢
- 新しいサイクルの始まり(再生・春)
夢にあらわれるウサギの意味
夢に登場するウサギは、繊細な感情、直感、幸運、あるいは自己の内面に潜む「柔らかな力」を象徴する。現実での印象と同様に、夢においてもウサギは多義的な意味を持ち、その状況や登場の仕方によって解釈は大きく変わる。
ウサギは人間の潜在意識にアクセスしやすい動物であり、とくに「感覚の世界」や「女性性」「循環」「守護」の領域に関係している。夢の中でウサギと出会ったとき、それは現実の中で見過ごしている心の声、あるいは大切なサインが届いている証である。
1.白いウサギが現れる夢
白いウサギは「純粋さ」「導き」「吉兆」の象徴である。この夢は、運気の上昇やチャンスの到来を示すことが多く、とくに人との縁に恵まれる時期を示唆する。直感に従って動くことで、良い方向へ物事が流れやすい。
2.黒いウサギが現れる夢
黒いウサギは、抑圧された感情や影の部分を象徴する。自分でも気づいていない恐れや不安が形をとって現れており、内面との対話が必要な時期にあることを示している。無意識の深層に光を当てるタイミングである。
3.ウサギを追いかける夢
ウサギを必死で追いかける夢は、「何かを手に入れたいという欲求」「見失いかけた希望」を象徴する。しかし、それが焦りから来ている場合、現実とのギャップに苦しんでいることもある。静かな心で自分の願望と向き合う必要がある。
4.ウサギに追いかけられる夢
逆に、ウサギに追いかけられる夢は、「逃げていた感情や問題が迫ってきている」サインである。可愛い存在であっても、夢の中で恐怖や混乱を感じた場合、自分の中の優しさや本音と向き合う準備が整っていないことを示している。
5.ウサギを抱きしめる夢
ウサギを抱いて安心している夢は、「愛されたいという願望」「癒しの充足」「母性的な感覚」と関係している。人間関係や家族関係における絆の強化を示すと同時に、自分自身を優しく包み込むような自己受容のプロセスをあらわす。
6.ウサギが死ぬ夢
ウサギの死は衝撃的だが、それは「古い感情の終焉」や「無垢の喪失」「新しい段階への移行」を示す象徴的な夢である。とくに、過去の思い出や未練を手放すことで、新たな可能性が芽生えるタイミングである。
7.ウサギが増える夢
たくさんのウサギが現れる夢は、「繁栄」「幸福の循環」「仲間の増加」など、ポジティブなサインを含んでいる。家庭運・恋愛運・金運などが上昇する兆しとされ、とくに心が満たされる出来事が続く時期に見られることが多い。
総括:ウサギの夢が映す魂の静けさと敏感さ
ウサギの夢は、現実の喧騒の中で失われがちな「感覚の静けさ」を思い出させてくれる。行動ではなく、感受性が問い直されている時期に多く現れ、他者との共鳴や内面のバランスがテーマとなる。やさしさと注意深さ――その両方をたずさえた存在であるウサギが夢に現れたとき、魂は静かに次のステージへと歩みを始めている。
ウサギは希望を跳ねる生きもの
ウサギは、恐れながらも前に進む存在である。
その姿は、私たちに「柔らかく、しなやかに、でも確かに跳ねる」ことの大切さを教えてくれる。
それは、人生の中で繰り返し訪れる再生のサイクルのなかに生きる力の象徴なのである。
記事)小鳥遊
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