【象徴解釈Vol.52】ハートの象徴 ― 命と愛の中心にあるかたち

心と命を宿すかたち
ハートは単なる愛の記号ではない。その形には、命の鼓動、魂の交流、感情の複雑な動きが託されている。文化や宗教、神話の中で繰り返し現れ、時に愛の証として、時に神聖な象徴として扱われてきたこのモチーフは、人間という存在の「内なる核」を映し出す鏡でもある。本稿では、ハートという形に込められた深層の意味を、東西の思想と占術の視点から掘り下げていく。
日本における文化・思想・神話による捉え方
日本において「ハート」という語が象徴的に用いられるようになったのは、西洋的な心臓の形状記号が輸入されて以降の近現代である。もともと日本の伝統思想や神話には、いわゆる西洋的なハート型の図像表現は存在しない。
しかし、心や魂を重要視する概念自体は古くから存在していた。たとえば『古事記』や『日本書紀』においては、神々の感情や意思決定に「心」が強く関与しており、「大御心(おおみごころ)」のように、天皇や神の意志そのものを「心」として示す表現も見られる。また、仏教伝来以降、「心」は煩悩や悟りといった精神活動の根幹に位置づけられ、「一切唯心造(いっさいゆいしんぞう)」のような思想が広まった。
また、心臓そのものについては、『解体新書』以降、西洋医学の影響でその臓器としての構造が知られるようになり、「心」と「心臓」の概念が重ねられていった歴史がある。
(日本以外の)東洋文化・思想・神話による捉え方
東洋思想において「心」は、しばしば人間存在の中心として扱われる。中国の儒教においては「心は身の主」とされ、『孟子』では心が「義」や「仁」を知覚し、行動に結びつける根源とされる。
また、仏教においては「心」がすべての現象の原因であるとされ、「一念三千」や「心即理」のように、宇宙の構造や悟りの境地とも直結する哲理が展開されている。チベット密教では、心臓が「菩提心」の宿る場所ともされ、瞑想の際にはハートチャクラ(アナーハタ・チャクラ)が重要なポイントとして扱われる。
ただし、これらは図像的に「ハート」型で表されることはほとんどなく、象徴というより観念的な「中心」や「源泉」として語られることが多い。
西洋の文化・思想・神話による捉え方
西洋におけるハートの象徴は、古代ギリシャやローマ神話にまでさかのぼる。たとえば、愛と美の女神アフロディーテ(ローマ神話ではヴィーナス)は、ハートと密接に関連づけられている存在である。
また、中世から近世にかけてのキリスト教的思想では、イエス・キリストの「聖心(Sacred Heart)」が慈愛の象徴として信仰され、心臓に炎や十字架、茨の冠をあしらった図像が広く描かれた。この図像は、現代のハート記号と形状的な類似性を持ち、その信仰がハートの愛情象徴としての定着を後押しした。
さらに、18世紀以降のヨーロッパでは、ハート形が愛の手紙やバレンタイン・カードに用いられるようになり、「愛の象徴」として世界的に普及した。こうした流れの中で、ハートは単なる臓器ではなく、魂、愛、情熱を表す象徴へと変化していった。
象徴から読み解くハート スピリチュアル メッセージ
ハートは単なる感情を示す記号ではない。それは「魂の触れ合い」や「根源的な愛の受容力」を象徴する形であり、人間関係における共感や受容の姿勢を象徴的に表している。
また、ハートの中央がくぼんだ形状は、「空(くう)」を抱く構造と見ることもでき、そこに「余白」や「共鳴の空間」を宿すことができる。すなわち、完全な自己充足ではなく、他者を受け入れることで成立する愛の在り方を示唆するものである。
占断に用いる際の考察
タロットとの関連
ハートの象徴は、タロットのカップのスート全体と深く関係している。カップは感情、水、関係性、愛、霊性といった領域を支配し、ハートはその中心的な形象として用いられる。特に「カップの2」「カップの10」などは、恋愛や調和的な関係を象徴するカードであり、カード上に描かれる聖杯の形や液体の流れは、心から心への感情の流動性を暗示している。
また、大アルカナでは「恋人たち」や「力」「節制」なども、愛や魂の結びつき、感情のバランスといったテーマを扱うため、ハートの象徴が裏側に潜んでいるといえる。



運気との関係
ハートの象徴は「愛情運」や「対人関係運」「自己愛」に関連する。自己を愛することによって他者との共感を育み、豊かな人間関係を築けるようになるため、対人関係における安定や、恋愛成就のサインとして占断で読み解かれることが多い。また、傷ついたハートは「癒し」や「再生」の象徴ともなり、心の修復過程を示すカード(たとえば「カップの3」「節制」「星」など)では、愛情の回復や心の潤いが戻る兆しとして読む。
夢分析に用いる例
夢の中のハートは、自己の感情の「核」を表すシンボルである。それは他者との絆を求める欲求であると同時に、自己を癒し育むための内なる声の象徴でもある。夢にあらわれるハートは、その形や状態を通じて、自身の感情世界をどのように捉え、向き合うべきかを教えてくれる道しるべとなる。
- 「ハートのマークを見る夢」
愛情や共感を求めている状態を表す。人間関係において心のつながりを大切にしたいという無意識の表れ。 - 「ハートが割れる夢」
失恋や友情の裏切り、または自己愛の喪失感を暗示。深層心理で何らかの傷が癒えていない可能性がある。 - 「ハートを贈る夢」
愛を与えたい、あるいはその表現をしたいという意志。感情を伝えたい人が実生活に存在している。 - 「ハートが燃えている夢」
激しい情熱、あるいは愛情への執着。ときに嫉妬心や独占欲の強まりを警告する暗示となる。 - 「ハートが光る夢」
霊的覚醒、または感情的な癒しが進んでいるサイン。自己受容が深まり、愛に満たされた状態に近づいている。
ハートが映す、わたしたちの本質
ハートの象徴は、感情や愛に留まらず、命そのものの躍動、精神の中枢、神聖なる意思の中心をも意味してきた。その形には「人間の内なる宇宙」が託されているといっても過言ではない。文化の違いを越えて、心臓は「感情の器」としての普遍的な役割を果たし、タロットや夢の中でも、人間の真実の姿を告げる鍵として働いている。ハートは、私たちが何を大切に生きているのかを映し出す象徴である。
記事)小鳥遊
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